蓼食い

「俺は面食いだ。すらっとした佐々木希みたいな女の子がタイプなんだ」「私は顔は関係ないかな。性格重視で相手を選ぶの、現に今の彼氏なんてお笑い芸人の誰それに似てるしい」など、恋愛で相手を選ぶ基準の一つとして挙げられがちな「ルックス」ですが、私は面食いではない人間など存在しないと思っています。私たちはみな面食い、いや蓼食いなのです。

 

冬の終わりごろ、久々に友人たちと集まり、近況報告に花を咲かせていました。

一人の友人に新しい彼氏ができたことも当然話題に上ります。友人はとにかくその彼氏の顔が好きでたまらないようです。写真を見せてもらうことにしました(女子会でのスタンダードなコイバナの流れですね)。

率直な感想は「…前の彼氏の方がかっこいいね」でした(これも女子会でのスタンダードなコイバナの流れですね)。友人の元カレは流行りの塩顔で鼻も高く、小顔でセクシーな雰囲気のある人でした。今回できた彼氏は顔がでかい。というか、顔のパーツがすべてでかい。背も高いそうで顔もきれいな男の人ではありますが私から見れば元カレのほうが圧倒的に魅力的だったのです。

友人はこう答えます。「やっぱり元カレ派の友達が多いんだよね。でも私顔でかい人好きだからさ。」顔の面積が広いことを好みのルックスの要素として挙げる人を初めて見たので驚きました。しかし彼女にとっては顔が大きいことは男らしさの象徴で例えば千葉雄大など顔が小さい人は男として見れないしかっこいいとも思わないとのことでした。

 

ここから得た仮説として「人間はみなお気に入りの面=蓼があるだけではないのか」というものがあげられます。私の好みのタイプは「人を殺してそうな顔」「もうすぐ死にます…みたいな顔」なのですが一言でいうとあんまり理解を得られません。詳細を言うと目がぎょろっとしていたり糸目だったり目つきが悪かったりして、鼻が高い人です。ここまで言ってもあんまり理解してもらえませんが、綾野剛とか、窪田正孝とか実例を挙げると納得してくれる人もいます。まあこの二人は「人殺ししてそうな顔」「もうすぐ死にます…みたいな顔」界の頂点に位置するので多少の理解は得やすいです。しかももっと言えば見る蓼と食べる蓼の好みは別なのです。

 

今までは「見る蓼」の話に終始していましたが、ここからは「食べる蓼」の話に移ります。

 

私の姉の話になります。「西島秀俊かっこいい」などといい、社会人フットサルサークルに所属するなど割と健康的なアラサー女子である姉ですが、この間彼氏を家に連れてきたのです。顔の第一印象は「お笑い芸人のなすびに似てるな」でした。思えば姉は大学生の時に初めて彼氏ができたとき以来B専と言われていました。なすびがBかどうかはわかりませんが、私には食えない蓼だなと思いました。なすびは人を殺さないしもうすぐ死にません。なすびは懸賞生活で1年3か月耐え抜くことができます。私の姉は「懸賞生活で1年3ヵ月耐え抜き顔」を一生食う蓼として選んだのです。

決して特殊な「かっこいい観」を持っているわけではない彼女ですが、「懸賞生活で1年3ヵ月耐え抜き顔」を一生食えるのです。そんな彼女はそもそも「見る蓼」の範囲が広いのではないかとにらんでいます。ピカソを鑑賞してすばらしい芸術作品だと思う人とわけのわからん落書きと思う人がいるのと同じように、見る蓼にも個性が出てきます。範囲の広さもそれぞれです。好みのグラデ―ションもあるでしょう。その個人個人の見る蓼の中から他の異性を選ぶ要素も加味して選抜入りしたのが「食う蓼」なのではないでしょうか。

「見る蓼」と「食う蓼」のバランスが違う人の方が圧倒的に多いとは思いますが、人気な「見る蓼」は「イケメン」とか「美少女」とか言われることになります。だからその蓼を食える人は圧倒的に少ないのです。しかし選抜入りするかはほかの要素も絡んでくるので面の皮以外を重視する人もいるでしょう。しかしそれはバランスの問題であって確実に食えるか食えないかは選抜される要素に入ってきます。それを考えたとき見る蓼にも食える蓼にも入らないのが「生理的に無理」な顔なのではないでしょうか。ちなみにうちの姉の生理的に無理な顔はぺこぱのシュウペイらしいです。理由は「なんか不気味だから」。私はシュウペイの顔はむしろ結構カワイイなと思うタイプなので共通部分にあたりません。ここから考えても顔が不細工だから毒男あるいは喪女という論理は破綻しています。顔の造詣が整ってるかどうかではなく自分という蓼を食ってくれる青虫とまだ出会ってないか、他のステータスを加味した結果選抜入りしなかっただけです。もしくは自分が食う蓼を選ぶときに面の皮やその他のステータスや総合力を重視しすぎということになります(別に全然モテるわけでもないし美人でもないのになぜか恋愛講座みたいな話になってきたけどそういうことを言いたいわけじゃありません。書いてて死にたくなってきました。殺してくれ)。

 

冒頭で面食いではない人間はいないという話をしましたが詳細に言えば間違っています。

詳細に言えば「人はみな面の皮を含めた蓼食いで、総合力で食べる蓼を選んでいるが、その中でも面の皮のステータスを重視する人を面食いと呼ぶ」ということです。

 

ちなみに私はいわゆるイケメンも好きな面食いなので松坂桃李似のムキムキ看護師さんに癒されつつ入院生活を送っています。みなさんもよい蓼ライフを。