惑星直列

私には趣味がある。ブランコに乗ることだ。

小学生のころからブランコに乗るのが異常に好きだった。

校庭のブランコに乗りながらバカデカい声で歌うのが常だったのであだ名が「ハイジ」だった。

そのくらいブランコが好きだった。

中学生になるとその趣味は鳴りを潜めた。

思春期である。

思春期は大好きなものを我慢してまでかっこつけたいという欲望を自身に植え付ける。

その結果,私はノートにボーカロイドsound horizonの曲の歌詞を書き,どや顔をする中学生になった。

今考えるとこっちの方が恥ずかしかった。ブランコに乗る中学生なんて全然ほほえましいのだ。

だから私は大学生になってからまたブランコに乗り始めた。

だってまだ心は14歳だから。

中学二年生がブランコに乗ってるなんてほほえましい光景じゃないか。

だから私はブランコに乗るのだ。

ただ小学生のころと変わったことが3つある。

一つは年齢だ。

私の心は永遠の14歳だが,肉体的にはもう24歳である。

割としっかりした大人である。

割としっかりした大人が小学校の校庭のブランコに乗ったら不審者である。

だから次に変わったのは場所である。

割としっかりした大人がブランコに乗るためには公園に行かなければならない。

公園はみんなのものなのだ。

だから公園で24歳の女がブランコに乗っていたとしてもまあギリ大丈夫なのである。

ただ,「まあギリ大丈夫」レベルなのである。

親子や子供たちなどの憩いの場になっている昼間に24歳の肉体的には割としっかりした髪がピンクの24歳の女がブランコに乗っていたら割と嫌であろう。私も恥ずかしい。

だから最後に変わったのは時間だった。

こうして私のブランコとの付き合いは「昼間の校庭で歌を歌いながら乗る小学生」から「夜の公演で歌を聴きながら乗る(休学中の)大学院生」に変わったのだった。

一人暮らしを始めてからその趣味は加速した。

ただ,犬の散歩とかに来る人が多いとか,なんか学生がたまっていたりすると恥ずかしいので,なるべく人がいない時に乗ることにしている。私は結構恥ずかしがりやなのだ。

先日も,人の気配がしないのを確認して,ブランコにしっかりと足をかけた。

前を向くと,真正面のベンチに座っている男性と完全に目が合った。

メンチを切られている気すらした。

完全にうかつだった。ブランコに乗りたすぎて確認が雑になっていたのだった。

メンチを切ってくる男性。完全に気まずい。しかしめちゃくちゃしっかり立ちこぎをする姿勢になっていたので,移動するのも気まずいし癪だな…と思い,そのまましっかり立ちこぎをすることにした。私にもブランコ乗りとしてのプライドってものがあるのだ。

すると男性が動いた。ブランコとベンチの手前にある雲梯に移動したのだ。そしてそのまま懸垂を始めた。

「このまあまあ広い公園で二人きりという気まずいシチュエーションでなぜそんな攻めた真似をするのか…?」

私は二つの仮説を立てた。

1つは私がスカートだったからだ。

パンツが見たかったのか?と思った。

しかし見ず知らずの男に見せるほど私のパンツは安くない。

何より私は絶対その男性のパンツを見れないのだ。

等価交換を覚悟できないやからに見せるパンツはない。私は立ちこぎから座りこぎに移行した。

2つ目は新手のナンパか?ということだった。

雲梯で懸垂をすることでマッチョをアピールしているのか?己のマッスルを…と思った。

私の脳内で「ムーンウォークして雌の気を引き,つがいを探す鳥」の動画がリピートした。

そんなことを考えていると,スポーツウェアを着た男性が公園にやってきた。

「やっとこのなんか気持ち悪い感じの状況を打破できる…」と思った。

私はその男性に期待を寄せた。

しかし,男性は私の期待を大いに裏切る行為に出たのだ。

先述のベンチで筋トレを始めたのだ。

ブランコに乗る髪がピンクの女と,雲梯で懸垂をする男と,ベンチで腕立てをする男がちょうど直線上でつながったのである。

惑星直列はウン百年に一回とかの割合で起こる,つまりかなりレアな現象らしいと聞いたことがある。

この状況はそうそうないと思った。

書き忘れていたが雲梯で筋トレをしている男は全身真っ赤だった。

なんか怖くなってきた。

私は家に帰ってごはんをたべることにした。私のブランコ乗りとしてのプライドはばっきり折れたのだ。

もう少し修行を積もうと思った。